社長メッセージ
人々の心を揺らし時代を彩る感動を常に創造し続ける
深化と進化をもたらした新化の5年間
アーティストマネージメントにずっと傾倒してきた私が社長に就任してから、振り返りますと早いもので5年が経ちました。就任から間もなくして世界的に新型コロナウイルスの感染症が拡大。世の人々は、これまでにない生活様式や働き方を求められ、これまでの常識が大きく覆される激動の時代に、経営者としてどんな状況下であろうともあらゆる人々が喜ぶ顔を思い浮かべながら行動し続けてまいりました。世界中が直面したこの5年間について、一つひとつをお話するのは簡単ではありませんが、今だからこそ思える成果が2つありました。
1つ目は、私たちの使命を共有し高まった結束力です。特にコロナ禍においては、無観客のライブや演劇、出演者同士が接触を避けてのドラマ撮影、全力で準備を進めていたドームやアリーナのライブの中止......不要不急という言葉のもと、人々の生活の原動力となる感動を創造してきた私たちの存在意義を社会から問われている感覚に直面しました。そのような高度な創造力が問われる極めて厳しい環境の中でも、所属アーティストと社員が一つになり、今できることを考え抜き、多くの挑戦をすることができました。その都度、私たちの果たすべき使命に立ち返り、それを基に全員でコロナ禍を乗り越えた経験は、今まで以上に強い結束力をもたらしたと思います。
2つ目の成果は、コミュニケーションの接点を増やすという意味でのDX化です。これまで私たちの業界は、何事においてもライブ感やリアルな場を何よりも大切にしてきました。もちろん、それは今でも変わらない要であるのですが、否が応でもリアルな場での表現ができなくなり、そんな待ったなしの状況がデジタルとの共存を加速度的に実現させてくれました。今後のライブイズムを多岐に展開していくうえでも、非常に良い機会であったと感じています。これまでもずっと現状打破の精神でやってまいりましたが、この5年間があったからこそ「深化と進化、そしてその先にある新化」へと昇華することができました。
経営者として大切にしていること
私は学生の頃から「自分が夢中で取り組んだことが"人々の心を揺らし世の中の話題"になる、そんな仕事をしたい」「たとえ自己満足であっても、自分が"生きた証"として胸を張れるような仕事がしたい」とずっと思ってきました。これが、私がアミューズに入社した時からある情熱であり、「感動だけが、人の心を撃ち抜ける」という企業理念は、入社以来ずっと私のテーゼとしてあります。何かを仕掛ける時、新しいことにチャレンジする時に、ビジネスとしての成功をイメージし綿密に戦略を立てることは、至極当然かつ重要です。しかし、結果として、たとえそれがビジネスにならなかったとしても、エンターテインメントとして世の中で大きな"話題"になったのであれば、それはある意味、大きな成功だと私は考えます。これは、私たちの事業の特性かもしれませんが、単独のプロジェクトで経済的な成果を得られなくても、世の中で話題になることで、やがてその話題が人々の流行となって、さらに時代を彩るカルチャーになり、最終的には数字として返ってくると確信しています。それは、アミューズの歴史は、アーティストや作品などを通じて振り撒く"話題の連続"であり、そこに企業としての成長があると実感しているからです。もちろん挑戦に対してビジネスも話題も手応えがない時もあります。その時の大きな悔しさは、次なるムーブメントを生むためのハングリー精神を鍛えてくれます。アミューズグループは、これからもアーティストや作品が、時代を彩る話題であり続けることを目指し、弛まず挑戦をしてまいります。
もう一つ、私が日常で大切にし、常に社内で共有していることがあります。それは、何事も「明るく、元気に、笑顔で。」取り組むということです。平易な言葉ではあるのですが、明るくて、元気があって、笑顔がいい人のところには、自然と人が集まり、仲間が仲間を生み、大きな人の輪となります。当たり前のことでありながら、その高い意識こそ、人々に感動を創造する、エンターテインメントに従事する者としての大事な資質であり、ある種の矜持でもあると思うのです。人に喜んでいただいたり、楽しんでいただくための鉄則は、まず自分が「明るく、元気に、笑顔で。」楽しむこと。そんな私たちが創り出す感動こそが、人の心を撃ち抜けるのです。
向かう先は世界、モノづくりは車座で
私たちは、創立50周年(2028年度)を目標とする中期ビジョンと中期経営計画を2023年に発表しました。中期ビジョンは「あらゆる才能とともに、世界に挑戦するプロデュースハウスへ」。これまでも海外に向けた様々なチャレンジを続けてきましたが、この先少子化による人口減少によって、国内のマーケットは縮小していくと見込まれています。コロナ禍以降、特に若いアーティストたちの意識や活動の場は、SNSなどを通じてすでに海を越えています。もちろん国内マーケットはとても重要ですが、常に世界を意識し、世界的な視野を持って活動することは、アーティストや私たちにとって、スケールの大きい成長を目指すうえでは、とても大切なことであります。そのような意味で、「世界に挑戦」という言葉を掲げました。
創業当時、マンションの一室で、まるで家族のように仲間が肩を寄せ合って、モノづくりに没頭する、そんなアミューズを「プロデュースハウス」と謳っていました。今も昔も変わらずに、仲間たちと車座となって生み出す感動を世界の大舞台に向けて届けてまいります。
目標指標としては、営業収入650億円、営業利益50億円。「世界を見据えた新たなアーティストの発掘とプロデュースの強化」、「世界と日本を繋ぐコンテンツの創造」、そして「最先端テクノロジー領域のサービス・ソリューションの開発」によって、世の中の話題とともに、過去最高の売上高と収益性の向上を目指してまいります。
IP・映画作品の開発は順調
中期経営計画を発表してから1年強の時間が経ちましたが、順調に進んでいる部分と改善の余地がある部分が見えてきました。順調に進んでいるのは、IPや映画などのオリジナルの原作の開発です。数年後を見据えて、さらに作品タイトルを揃えていくための制作に邁進しており、すでに中期経営計画で目標とした以上の有力なタイトルが揃ってきております。一例として、HykeComicと共同製作した「夫の家庭を壊すまで」という作品は、2023年10月からスマートフォン向けの縦スクロール漫画webtoonで連載が始まると、LINEマンガ総合ランキングで1位を獲得するなど人気を博し、2024年7月にはテレビ東京でドラマ化され話題を集めました。このような展開ができるタイトルの数々を現在開発中でありますので、今後に是非ご期待いただければと思います。また、作品とアーティストのシナジーや、海外マーケットを視野に入れた開発にも積極的に取り組んでおります。アミューズグループの中期経営計画達成のための要とし進取果敢に取り組んでまいります。
世界で圧倒的な活躍を見せるBABYMETAL
アーティストの海外活動という点においても様々なトライを重ねていますが、中でもBABYMETALの活躍は圧倒的です。2023年から2024年にかけて25ヶ国98公演のワールドツアーを実施し、約28万人を動員しましたが、世界で活躍する国内アーティストの中でも、その人気と動員力はトップクラスであると自負しております。日本のミュ―ジシャンが海外へ進出するきっかけは、アニメの主題歌などとの掛け算が主流ですが、彼女たちは例外であります。10年以上にわたり、世界中で地道なライブツアーを何度も重ねることで、キャラクターや音楽性、パフォーマンスからなるオリジナリティー溢れる魅力によって、徐々にファンが広がり、たくさんの国々を越えて世界的なムーブメントになっていったBABYMETALは、メンバー、チームの並々ならぬ長年の努力が大きな実を結んだ日本の音楽シーンにおいても誇らしい実例であります。昨年度は年間の大部分を海外でツアーをしていましたが、彼女たちの姿を見ていると、世界で勝負していくためには、何においてもハングリーさが必要であることを改めて痛感させられます。準備にしても移動にしても、日本国内とは異なる、実に過酷な環境において、郷に入っては郷に従えとしっかりとその時々の状況に順応し、各国のライブに来ていただくお客様と向き合う姿勢は、本当に感動いたします。そういった世界への意識やハングリーさを身につけるためにも、若いアーティストたちの世界への挑戦を積極的に後押ししていきたいです。今後は、国内ツアーの一環としての意識で、特にアジアでのライブを組み込んでいきたいと思っています。
「ライフカルチャー事業」は一部事業から撤退
一方、まだまだその潜在的な可能性を引き出しきれておらず、改善の余地があるのは、私たちの新たなチャレンジであるライフカルチャー事業です。世界的に成長しているアドベンチャーツーリズム市場を背景に、本社のある山梨県の素晴らしい自然資産を、アミューズならではのプロデュース力で事業化しようと企てています。しかし前期は計画の遅れ等により事業損失を計上し、芽が出なかった一部の事業について、早めに撤退の判断をいたしました。現在は計画の見直しを行っておりますが、文化的で社会的な意義を持つ当事業に関しては、最終的には拡大しているインバウンド市場をも取り込むために、国内ツーリズムのファミリー層を中心とした方々に向けて、魅力あるコンテンツや環境をしっかりと形にしていきたいと考えています。私たちは事業ポートフォリオを拡充していく重要性を、イベントの開催が一切できなくなったコロナ禍で、身を以って体験しました。中核であるアーティスト事業とは別の収益源を確保することで、経営の安定化を目指すとともに、アーティストファーストの礎を築いてまいります。新規事業については、投下資本に対する回収率や期待値を慎重に精査し柔軟な判断をしながら成功実現に向けて努めてまいります。
新体制の目的は、「縦の軸」のコンテンツ力、「横の軸」の展開力の強化
私は、今のアミューズグループの組織の状態を縦と横の2つの軸で捉えています。縦とは、それぞれのアーティストや事業を中心に据えた、想いや情熱を共有する独立独歩なチーム編成を表します。縦が強いほど自立性が高まり、チームカラーが色濃く明確になります。そうすると、それぞれのアイデンティティ、才能や価値、可能性が大きく育まれ、チーム力が高まり輪郭がはっきりします。一方、横とは、部門をまたいだ全社的な連携のことです。この機能が強くなると、組織全体の一体感が増す一方で、チームの独立性よりも横並びに重きを置く組織になりがちです。成長のためには縦も横も必要で、大切なのはバランスです。
2019年までのアミューズは、縦が強い会社で、アーティストやスタッフのそれぞれの感性や個性の受け皿として、アミューズがありました。それが、コロナ禍となり、全社で支え合わなければならない状況になったことで、横の強化が急加速しました。このこと自体は前述のとおり、この5年間での大きな成果として手応えがありながら、アーティストやIP・コンテンツに関わる人たちが一層の情熱と責任を持って取り組み、それぞれが強い個性を十分に発揮できる環境をしっかりと作らなければならない。そう考えて導入したのが、2024年10月からスタートした新体制です。今回設置した社内カンパニー、そして注力事業を会社分割した事業会社には、創業当時と変わらない小回りの効く規模によって高められる熱量を持った「プロデュースハウス」として、それぞれの感性で躍動してほしいと考えています。
感動だけが、人の心を撃ち抜ける
才能に富んだアーティスト、リアルな感動を軸にしたライブイズム、話題を呼び込むプロデュース力、グループ内でワンストップな対応ができるソリューションなどが、私たちの強みとして一般的に挙げられていますが、本当の強みは、アーティストや社員の「人間力」にあります。私たちの仕事は、人の心と向き合い、たくさん会話をしながらアイデアやプランを実現しうねりに変えていくことです。好奇心から生まれる想像力、実現に向けたコミュニケーションが何よりも大切な業態です。人は情熱の熱量によってパフォーマンスが大きく変わります。アミューズはあらゆる可能性に挑戦する情熱的な「人間力」を持った集団なのです。
人の心を動かすことができるのは、人だけです。今、社会はAIの可能性について賑やかですが、私たちが大切に、中心に据えているものに変わりありません。進化したデジタルやAIを活かしながらも、その中心は人です。人の想いや才能だけが、人の心を揺らすことができる。一人の心が動けば、やがてそれは広がり世の中を揺らすことができる。まさに感動のバタフライエフェクトです。「感動だけが、人の心を撃ち抜ける」という信念のもと、アミューズグループが創り出すエンターテインメントは、新しい時代の人々の心を揺らし続けます。
これからのアミューズグループに是非、ご期待、応援のほど宜しくお願いいたします。
代表取締役社長