グローバルニュースサイト「The Worldfolio」に、当社代表取締役会長 兼 社長の大里洋吉のインタビュー記事が掲載されました。日本のエンターテインメントや、アミューズの強み、海外戦略、今後の展望などについてお話ししています。
▽The Wolrdfolio記事
https://www.theworldfolio.com/interviews/shaping-japans-entertainment-landscape/6907/
本記事では日本語訳をお届けします。
日本のエンターテインメントを形づくる
一流アーティストのマネージメントや、音楽、映画、ライブなど多彩なコンテンツを国内外に発信するリーディング・エンターテインメント・カンパニー、アミューズ。
2025年7月5日掲載
――日本のエンターテインメント産業は、能や歌舞伎に根ざしながらも、革新と伝統が見事に融合した豊かな文化のタペストリーです。今日では、アニメのスタジオジブリやゲームの任天堂、映画監督の黒澤明、J-POPのYOASOBIなど、さまざまなジャンルで影響力のあるリーダーがいます。現在の日本のエンターテインメント産業の「独自性」とは何だとお考えでしょうか?
なかなか一言では難しいですね...。私はもう50年以上この分野に携わっていますが、大学を卒業してエンターテインメント業界に入り、他の分野で働いたことがないので、エンターテインメント以外の世界のことはあまり語れませんが、私にとってのエンターテインメントというのは主に音楽のことで、必ずしも黒澤監督のような人物やジブリのようなスタジオのことを指すわけではありません。私の仕事仲間の多くが戦後生まれで、アメリカ文化が日本に流入してきた時代でした。海外で何が起こっているのか、私たちは必ずしも完全に理解していたわけではないですが、海外の音楽やテレビ、映画は常に取り入れられてきました。
質問の答えに直接なっていないかもしれませんが、私は学生時代、個人的にはアメリカよりもヨーロッパの文化を好んでいました。当時はまだテレビが普及する前で、日本にも映画館がたくさんあり、映画産業が盛んで、イギリス・イタリア・フランスの映画をたくさん観て育ちました。ジョン・フォードの西部劇のようなアメリカ映画は、単純明快に感じて惹かれなかった。それとは対照的にヨーロッパ映画にはニュアンスや人間味があり、とりわけ音楽が重要な役割を果たしていました。ミュージカルではなくとも、音楽は重要でした。それからテレビが登場すると、ドラマが映画に取って代わるようになり、多くの映画館が閉館しました。ドラマは日本社会に強い影響を与え、同時にヨーロッパやアメリカの音楽が目立つようになり、このような環境が私たち学生にも大きな影響を与えました。学校には楽器があり、多くはヤマハやカワイといった日本のメーカー製でした。私が12歳か13歳くらいの頃、ギターは3,000円くらい、ドラムセットは12,000円くらいで買えたし、アンプだって手頃でした。楽器が身近にあったから、聴いた音楽をすぐに演奏し始めることができたのです。私も中学生のときにバンドを組んでいて、たくさんのファンがいたんですよ(笑)。 実際、日本でロックバンドが流行った理由のひとつは、国産楽器が手ごろな価格で手に入ったことにあると思います。そのおかげで、若者たちは憧れの音楽を簡単に再現できるようになって、60年、70年前は、原曲を自分なりに再現したり、解釈し直したりするのが当たり前でした。だから日本の観客は質が高いんです。単に「上手い」「下手」の問題ではなく、相乗効果や文化の一貫性の方が大切にされてきたんですね。また、日本のユニークな点は、NHKや5大民放をはじめとする放送局の強さです。テレビの前はFMラジオが大きな役割を果たし、これらのフォーマットが音楽を全国に広めるのに重要な役目を果たしました。だから、私が大学卒業後にエンターテインメントの世界に入ったとき、市場はすでにそこにあったんです。情熱とアーティストをマネージメントしサポートする能力があれば、この分野でキャリアを築くことができました。
最初は私たちも洋楽を聴いていましたが、のちに日本の観客に向けてオリジナルの音楽が登場する時代が到来しました。それが日本のエンターテインメントにおける本格的なビジネスモデルの始まりだったと思います。
私自身は海外市場を開拓したかったし、そう提言しました。しかし当時、日本の国内市場は非常に大きく、アーティストは海外に出る必要性を感じていなかった。レコードの売り上げも好調だったし、言葉の壁もあった。海外進出を急ぐ理由もなかった。また、日本は戦後、アメリカの影響もあって平和が続いていたので、エンターテインメントのような平和産業に集中できたのだと思います。
そういう意味では、日本はとても恵まれた国だったと思います。国内市場のおかげで、グローバル展開しなくてもエンターテインメントの分野で影響力を持つことができたんですから。黒澤明やスタジオジブリのような存在が、国際的な評価を得たこともその一例だと思います。
――かつて日本には大きな国内市場があり、海外に目を向ける必要がなかったとおっしゃいましたが、現在、日本は人口減少という深刻な課題に直面しており、国内の消費者基盤が縮小しています。同時に、日本のエンターテインメントは海外との競争に直面しています。特に、映画産業や世界的に広がったK-POPを持つ韓国文化との競争が激化していますが、御社は、この国内市場の縮小の影響にどのように対処し、グローバル競争にどのように差別化をしていくお考えですか?
どのように差別化するかはまだ答えがでておらず、取り組むべき課題だと思っています。人口を見ると、日本は韓国の約3倍なので、これまで国内重視のアプローチをする余裕がありました。背景やビジネス環境もかなり違います。
創立以来、ファンとのコミュニケーションを大切にしてきた結果、大きな収益源になっているのが、ファンクラブモデルです。韓国ではここ数年で有料・無料のファンクラブがでてきましたが、日本では約60年前から会費を払ってアーティストを応援する文化があります。会費は4,000円から6,000円程度で、ファンの方たちは作品やグッズとともに好きなアーティストを応援しますが、それでもチケットが手に入らないことがあります。それは需給管理を徹底しているからで、コンサートは常に満席。その希少性が、チケットを手に入れようとファンクラブに参加する人々を駆り立てる のです。このようなシステムは欧米諸国には存在せず、ファンクラブ会員は通常無料か、別の仕組みになっていたりします。なぜ日本でこのモデルが生まれたのか確かなことは言えませんが、私たちの市場特有の、非常にユニークなものだと思います。

私はアミューズ創立と同時に、国際市場に非常に興味を持つようになり、会社を海外に進出させることにしました。BABYMETALという3人組のガールズユニットもその一環です。BABYMETALは2024年にドイツやオーストラリアを含む101回の海外公演を行っています。とはいえ、海外で成功を収めるのは簡単なことではありません。海外コンサートを開催するための確かなビジネスモデルがまだわかっていない。それでも、南米のような市場まで海外進出を果たしている日本企業が他にあまり見られないので、海外展開の取り組みにおいて比較的ユニークな存在であると言えると思います。

多くの韓国人アーティストも海外でコンサートを開催していますが、日本も非常にオープンなマーケットで、どんなジャンルの音楽でも受け入れています。例えば、韓国にもロックバンドは存在しますが、土壌があまりなく、まだ定着していないのが現状です。その結果、シンガーソングライターは日本に比べて少ない印象です。
韓国のヒップホップ・アイドルは、ここ十数年自ら作詞・作曲も手掛けるようになりましたが、彼らの曲の多くはまだ海外のプロデューサーから提供されています。 対照的に、日本のアーティストは自分たちで作詞・作曲することが多いです。例えば、サザンオールスターズです。彼らは1978年から活動していて、私がメンバーに初めて会ったとき、彼らはまだ大学生で、私は30代でした。サザンオールスターズは2025年3月にリリースした最新作を含め、すべてのアルバムがチャート初登場1位を記録し、2025年もツアーをまわり、最終公演は東京ドームで行いました。
――コンサートを海外でも開催するとおっしゃっていましたが、今日、ストリーミングプラットフォームやソーシャルメディアによって、世界中にリーチする機会が増えています。これらのプラットフォームをどのように活用し、オンラインと対面でのファンとのエンゲージメントのギャップをどのように埋めていますか?
ストリーミングサービスの影響は大きく、正直なところ少し手に負えない部分もあります。以前はすべてを管理・コントロールすることができていましたが、今ではそのレベルを維持するのはかなり難しくなっています。ストリーミングは確かにトレンドかもしれませんが、アミューズではライブパフォーマンスに主眼を置いています。ライブイベントは私たちの会社の中核であり、ライブで成功できないアーティストは、本当の意味で実力を証明できていないと個人的には考えています。
ライブといえば、今年デビュー35周年を迎えた沖縄出身のバンド、BEGINです。今年3月に武道館でライブを行い、チーム総出でお祝いしました。メンバー全員が今年57歳になります。
――今後、新しい才能を引き寄せ、育成するために、どのような取り組みを行っていますか?
私たちはさまざまな取り組みを行っています。対面とオンラインの両方でオーディションを実施していますし、韓国や台湾などでも才能を発掘しています。先ほど申し上げたように、以前は日本のマーケットだけで十分でしたが、これからはグローバルに考えなければなりません。海外で成功する意欲のあるアーティストを発掘し、育てていきたい。現在、ほとんどのアーティストマネージメント会社がそのような考え方をもっていると思います。
私たちは幸運にもこの分野で先陣を切ることができましたが、今は次のステップに進まなければならない時期に来ています。長年インタビューに応えていなかったので、この機会に率直に話したいと思います。社員やアーティスト、そして彼らの家族にもメッセージを送りたい。「私たちは行動を起こし、ともに前進していく」必要があります。
――アーティストが成功する可能性を高めるために、アミューズはどのようなリソースやサポートを提供していますか?
アミューズにはさまざまな部門があり、専任のスタッフがそれぞれの分野でアーティストをサポートしています。例えば、Kultureという子会社があり、エンターテインメントと新興テクノロジー(AI、ブロックチェーン、Web3、メタバースなど)を融合させ、ファンのエンゲージメントを高めています。また昨年11月には、日本初のライブチケットを軸としたコミュニケーションプラットフォーム「KLEW」を立ち上げました。同じ公演のライブチケットを持っているファン同士や出演アーティストだけが参加できるコミュニケーションの場を提供します。Kultureを通じて、新たなデジタルという視点からプロジェクトを開発し、アーティストに新たな機会を提供することを目指しています。
――アミューズの最大の強み、あるいはエンターテインメント業界における他社との違いは何だと思いますか?
当社の最大の強みは、豊かなジャンル、個性から成る200組を超えるアーティストのポートフォリオと、長い歴史と長期的な視点に基づいたアーティストマネージメントです。例えば、現在も第一線で活躍しているサザンオールスターズや三宅裕司は40年以上、福山雅治は35年、Perfumeは25年近く、長きにわたり継続してサポートしてきました。私たちは上場企業ですから、すべてが透明で、会計もオープンで、隠し事は一切ありません。その透明性が信頼を生み、アーティストが契約を更新し続ける理由のひとつにもなっています。
また、私たちの強みは創造性にもあります。クリエイティブなマネージャーやプロデューサーがアーティストと密接に協力し、長期的な信頼関係を築いています。メディアが進化しても、アーティストと当社の信頼関係は不変です。
私たちは家族のようなものです。例えば、私が初めてPerfumeを知ったのは、彼女たちが住む広島で12歳くらいのときでした。中学生になる彼女たちの両親に上京して寮に入り、日中は学校に通って放課後はダンスやヴォーカルのトレーニングを受けさせたいと提案しました。結成は25年前ですが、彼女たちは才能を開花させ、私たちは家族のような関係を築いてきました。
このようなサポートは、専門的な技術を提供することだけではなく、深く、個人的な投資なのです 。私たちはアーティストに寄り添います。テクノロジーが進化しても、最も重要なのは才能を育て、信頼を築くことです。それが、アミューズがこの業界で長く強くあり続けている理由だと思います。
会社とアーティストが対等なパートナーとして、クリエイティビティを共創すること。これが私たちならではの強みです。アーティストとともに成長し、デビュー後も芸能活動だけでなく、人間的にも金銭的にもサポートします。これは他の国では聞いたことがないことです。

――御社は主に日本人アーティストに焦点を当てていますが、国際的な展開も行っていますね。1986年にアメリカに進出し、その後、中国、韓国、香港にオフィスを構えてアジアに進出しました。海外進出のきっかけと、現在のグローバル戦略について教えてください。
繰り返しになりますが、かつて日本のアーティストが海外に出たがらなかった最大の理由は、国内市場がすでに大きく繁栄していたことと、言葉の壁があったからです。英語が話せなければ、グローバルに成功することはできないと教えられてきました。しかし、実際は必ずしもそうではない。今日では、アーティストが海外でコンサートをすべて日本語で行っても成功できるのです。
例えば、Perfumeは英語が話せなくてもニューヨークでライブを行い、全公演が完売しました。ステージでは日本語で話し、客席の誰かにマイクを渡して通訳してもらうこともある。彼女らは国際的なファン層を持っているため、多くのファンがライブ中に自ら進んで通訳をしてくれる。
アニメの世界的な人気も大きな役割を果たしています。アニメ好きの多くは日本の音楽ファンでもあり、日本語を勉強してコンサートで日本語で歌いたがることも多い。
このような変化を受けて、私たちは今、アーティストたちに、「たとえ英語が話せなかったり、使いたくなくても、日本語でパフォーマンスをし、観客とつながることで、国際的に成功することができる」と伝えています。実際、5人組ロックバンドFLOWは、アニメのタイアップ曲を武器に、2024年から23カ国で48公演を開催し、世界で着実にライブの実績を積み重ねています。
――アーティストが海外公演や海外進出をする際、アミューズはどのようなサポートをしているのでしょうか。
さまざまなアプローチを考えています。理想を言えば、すべてのアーティストに海外に挑戦する機会を与えたい。もちろん、向き不向きはありますが、昔に比べれば、海外に一歩踏み出したいというアーティストが増えています。
――日本のアーティストやアミューズにとって、最も成長が期待できる市場はどこだとお考えでしょうか?
もちろん、日本人アーティストとの仕事が第一であることに変わりはありませんが、今有望だと考えているのは、タイです。文化的な親和性もあるし、音楽的な基盤もある。日本と同じように文化交流を前提に、現地のアーティストを発掘して、育成、プロデュースしていきたいと考えています。その他、韓国、台湾、香港など、東アジアや東南アジアの主要市場もターゲットにしています。これらの地域は最も大きな成長の可能性を秘めていると考えています。
また、子会社のライブ・ビューイング・ジャパン(以下、LVJ)は、国内外の映画館などへコンサートや舞台、イベントなどの映像を同時中継・ディレイ中継するライブ・ビューイング事業に特化しています。2025年4月には、シンガポールのネットワーク技術会社であるCaton Technologyと共同でLIVE VIEWING ENTERTAINMENT(以下、LVE)を設立し、アジアでの事業確立とさらなるグローバル展開を目指します。
このモデルはアジア全域に拡大しており、アジア諸国の映画館を利用する計画もあります。私たちはライブイベントを映画館に中継することを「アウトサイド・ライブイベント」と呼んでおり、この取り組みのために専門のデジタルチームを配置しています。東南アジアや東アジアでは、映画館で映画を観るだけではなく、映画館に居ながら会場と同じ一体感や臨場感をもって参加できるライブエンターテインメントの体験価値を提供していきます。
このモデルは、ファンの方々がユニークで没入感のある方法でパフォーマンスを体験できることで、日本のアーティストにも欧米のアーティストにもメリットがあります。このような仕組みは欧米諸国には存在しないと思います。高解像度の大型スクリーンと高音質のサウンドシステムは、テレビで見るよりもずっと良いコンサート体験を提供してくれます。また、普段はできない、ビールを片手にゆったりと座って鑑賞するという、従来のコンサートとは異なる新しい楽しみ方も体験することができます。
先に述べたように、日本ではコンサートの需要と供給のバランスが厳密に管理されているため、チケットは完売するのが普通で、アーティストが公演期間を延長するということはありません。つまり、インバウンドの観光客はライブに参加できないことも多いので、LVJの映画館体験は素晴らしい代替手段であり、私たちはこのモデルをアジアだけではなく、最終的には欧米市場にも拡大できる可能性を強く感じています。
――このようなクロスメディア・アプローチについては、効率性を高めるためにM&Aを進める企業も見られます。近年、未来ボックスと極東電視台の株式を取得しましたね。アミューズの全体的な成長戦略にとって、こうしたM&Aはどの程度重要なのでしょうか?
正直なところ、私は一般的なM&Aには特に興味がありません。しかし、AIの分野では強力な企業の買収を積極的に検討しています。私たちが期待しているのは、AIがアニメーション制作などの分野でコスト削減に役立つことです。AIには大きな可能性があると信じていますし、現在、有望な候補をいくつか検討中です。
――御社は創立47周年を迎えます。3年後にアミューズの50周年記念として再度インタビューをするとしたら、会長として、この3年間で達成したい目標や抱負をお聞かせください。
50周年を記念して、大きなライブイベントを企画しようと考えています。私の目標のひとつは、海外の音楽をもっと日本に紹介 することです。私が若かった頃、スティービー・ワンダーが来日したことがありましたが、現在、海外のミュージシャンが開催地として東京を第一候補に選ぶことはあまりありません。多くのミュージシャンはアジアのどこか1都市を選びますが、その多くはシンガポールか、中国の上海や北京です。
私はそれを変えたい。世界のトップ・アーティストを日本に招き、演奏するだけではなく、日本のミュージシャンとのコラボレーションを実現したいと考えています。このような文化交流は、アーティストと観客の双方に刺激を与えると信じています。それがこのライブイベントの背後にあるビジョンです。
また、先ほども申し上げたように、日本のアーティストのコンサートはキャパシティの管理が厳しく、すぐに完売してしまうため、インバウンドの観光客は日本のライブを体験できないことが多いです。私は、ライブコンサートや映画館でのライブ・ビューイングなどを通じて、日本のアーティストの才能をより多くの人に知ってもらう機会を作っていきたいと思っています。
――最後にアミューズとしてメッセージを世界に発信するとしたら?
私のメッセージは、「文化を通じて平和を」です。