アミューズの財産である「人」や「モノ・コト」などにフォーカスするTOPICSオリジナル企画。今回は、オーディション管理システム「AUDITIONIST(オーディショニスト)」と、同システムを開発した株式会社未来ボックスを取り上げます。未来ボックスは、2022年7月にアミューズグループに参画。エンターテインメント分野でのDXを進めるべく、さまざまなシステム・サービス開発をしており、そのひとつとして、「才能の原石を見逃さない」をコンセプトに、「AUDITIONIST」を2024年11月にリリース。現在はアミューズだけでなく、大手芸能事務所や出版社などでも導入され、 オーディションの現場業務の効率化に貢献しています。「AUDITIONIST」はどのような経緯で開発され、未来ボックスとアミューズとのシナジー効果はどのように発揮されたのか。未来ボックス代表取締役社長の志賀雄太(しがゆうた)と、同社取締役兼アミューズのIT システム部部長の清水邦夫(しみずくにお)に詳しく話を聞きました。
アミューズグループでDX推進を担う未来ボックス

―はじめに、改めて未来ボックスの概要を教えてください。
志賀「当社は、ITサービスやシステムの開発を行う企業です。単に開発を請け負うだけでなく、お客様のニーズや要望を伺い、真の課題解決につながるような仕組みづくりや事業の企画提案から手がけるのが最大の特徴です。2022年7月にアミューズグループの傘下に入ってからは、アミューズを主な取引先として、グループ内の課題解決や新サービスの企画開発に携わっています」
―グループに参画することを決めた背景には、どのような理由があったのでしょうか。
志賀「2020年頃に人気マンガ『キャプテン翼』をもとにしたゲーム開発を行ったことが大きなきっかけです。それまでは多様な業界の仕事を手がけていましたが、大きな影響力のあるIPのゲーム開発を経験したことで、エンターテインメント領域でこそ当社の強みや経験を活かせるのではないかと実感し、アミューズグループへのジョインを決めました」
清水「アミューズとしては、社会のデジタル化が進むにつれ急増する社内のシステム開発へのニーズにどう対応するかが課題でした。ファンクラブの管理やアーティストグッズの販売などで新たなシステムを作りたくても、社内にエンジニア組織はなく、外注するしかありません。しかし、外部の企業に開発を発注すれば、その分コストがかさみます。システム開発を早々に内製化したいと考えていたところ出会ったのが、未来ボックスだったのです」
国内初、LINEを活用したオーディション管理システム「AUDITIONIST」
―未来ボックスが開発し、2024年11月にリリースしたオーディション管理システム「AUDITIONIST」。開発のきっかけやどのようなシステムなのか、具体的に教えてください。
志賀「『AUDITIONIST』は、オーディション業務を効率化するために開発したWebシステムです。LINEを活用しているのが特徴で、応募の受付や応募者とのコミュニケーションはすべてLINEで完結します。応募者情報はシステムの管理画面で一元管理しており、選考担当が複数名いる場合でも、スムーズにオーディションを進めることが可能です。また、ダウンロードログも取得しているため、セキュリティ面でも万全な対策をとっています」
清水「実はこのシステム、アミューズで次世代アーティストの発掘を担う新人開発部門から相談があったことをきっかけに、開発に着手したものでした。というのも近年、メールを使う若者が減少し、オーディションの応募受付や選考結果の連絡で機会損失が発生していたそうなんです。SNSやLINEで応募受付や選考の連絡ができる仕組みが欲しいとの要望を受け、課題を深掘りしていきました。そうすると、オーディション応募者の情報を手打ちでExcelに入力したり、選考の連絡を応募者に個別に送ったり、選考担当者に大量の書類を渡して結果をとりまとめたり......といったアナログな業務の存在が次々と浮き彫りになり、DXを進めようとプロジェクトは進んでいきました」
―システムの最大のPRポイントは、どのような点ですか?
清水「やはりLINE連携の部分ではないでしょうか。当社の調べた限りでは、LINEでコミュニケーションが完結するオーディション管理システムは国内初です」
志賀「加えて、選考プロセスをオンラインで完結できる点も、業務効率化に貢献できているポイントかと思います。複数人がシステムに同時にアクセスし、選考結果を更新できるので、情報のとりまとめ役が必要ありません。条件設定などもできるため、一次選考といったオーディション初期の審査もスピーディーに進められます。また、オーディションはなるべく予算を抑えて行われることが多いのですが、最低月額5万円からと、安価でご利用いただける点も特徴のひとつです」
―開発で苦労した点を教えてください。
志賀「外販可能なシステムとする構想が開発当初からあったため、アミューズの課題を一般化し、多くのオーディションで共通して使いやすいシステムへと仕上げていくことがなかなか難しいポイントでした。ただ、逆に言えば、設計の段階からアミューズの皆さんと深く連携をとることができたため、現場のリアルな声をもとにシステムを開発し、ブラッシュアップすることができました」
清水「開発フェーズでは、アミューズで実際にオーディションに携わっているメンバーをチームに招いたんです。現場のリアルな声やフィードバックをそのまま開発に反映させることができ、オーディションに携わる方にとって本当に使いやすいシステムに仕上げられたのではないかと思います」
約8,000名規模のオーディションでも活用されたAUDITIONIST
現場にもたらした成果とは

―AUDITIONISTをリリースして約8カ月。現在までにどのような成果が得られていますか?
清水「アミューズでは、約8 ,000名の応募があったボーイズオーディション『NO MORE FILTER』での活用が非常に大きな成果となったと思います。2023年末に開催した、このオーディションは、2013年入社の同期マネージャー6人が通常の担当業務と並行しながら選考などを進めていったのですが、大規模なオーディションでありながらもスムーズに選考を進めていけたのは、システムの存在も大きかったのではないかと自負しています」
志賀「2次選考のWeb面談では、AUDITIONISTの管理画面を選考担当者の皆さんで確認しながら、応募者との対話を進めていったと伺いました」
清水「そうですね。システムがない時代は、一人ひとりプリントアウトされた書類を眺めながら面談をしていましたが、このオーディションでは、1次選考や2次選考の業務の大部分が効率化されたと聞いています。その評判が社内にも浸透し、現在ではマネージメントを担当する各部門でAUDITIONISTの利用を進めてもらうことができています。現在開催中のAMUSE Audition 2025-26『私が撮りたかった俳優の原石展』や、アミューズ初の新グループ候補生オーディション『 Brightオーディション2025』でもシステムを積極的に活用中です」
―お客様からの反響はいかがでしょうか。
清水「私が先日お話した某大手芸能事務所の方は、オーディション業務を一人で担当されていたそうで、『ありがたく使わせてもらっています』と感想を寄せてくださいました」
志賀「小学館さんの『ちゃおガールオーディション』では、雑誌の誌面に記載したQRコードをもとに、LINEで応募を受け付けて選考を進める形に。雑誌の購入とオーディションの連動に新たなあり方を1つ提示できたのではないかと思っています。『才能の原石を見逃さない』というAUDITIONISTのコンセプトを体現し、オーディション担当者が一人ひとりの選考により多くの時間を使えるようになっていると感じます」
―AUDITIONISTを今後、どのように展開していきたいですか?
志賀「まずはAUDITIONISTの認知拡大を目指し、多くのエンタメ業界の方々に使っていただける未来を目指したいと考えています。オーディション番組との連動企画なども視野に入れ、多くの方にシステムの名前や存在を知っていただけたら。その後は、昨今のスキル採用・タレント採用の流れを受け、企業の採用活動でも利用可能なシステムへと横展開ができないか、検討しているところです」
清水「加えて、エンタメ分野での活用としては、応募受付の窓口をLINEだけでなく他のSNSでも実現できないかと構想しています。まだ研究段階ではありますが、若い世代の間で使われているTikTokなどのSNSと連携がとれるようなシステムへさらに進化させることができたら、より高い利便性を実現できると思います」
アミューズグループの一員として描く未来

―未来ボックスがアミューズグループの一員となって約3年。シナジー効果をどのような点に感じていますか?
志賀「やはり、プロトタイプの段階でエンタメ関係の業務のニーズを正確に把握できるのは大きいですね。企画・開発にかかる予算を当社で捻出して対応することもできるので、そうしたメリットも活かしながら、これからさらに現場で必要な仕組みを作っていけたらと考えています。アミューズの皆さんには、ぜひ当社に課題やニーズを積極的に投げかけてもらえたら嬉しいです」
清水「未来ボックスがグループの一員に加わったことで、これまで以上に業務のDXを進められるようになったと感じています。特に未 来ボックスの皆さんは、我々以上に当事者目線を持って、事業やシステムの開発を提案してくれるので、非常に力強い存在です。未来ボックスと一緒にDXを推進し、新人開発やアーティストマネージメントなど、現場が本来やるべき仕事に集中できるような環境を作っていければと思います」
―最後に、未来ボックス としての今後の展望を教えてください。
志賀「当社は『誰もが使いたくなるWebサービスを作る』ということを目指して、事業と日々向き合っています。なぜ、そうしたコンセプトを掲げるのか。それは、多くの人が使うWebサービスであれば、便利な仕組みを1社1社、あるいは一人ひとりに対して安価に提供できるからです。多くの方に使っていただけるようなサービスを、芸能・エンタメの領域で作っていく。この点を軸としながら、今後も使いやすいサービスを開発していきたいと思います」
*社員の所属部署などの情報は2025年8月時点のものになります。